こんにちは。文明史家・日本人のための世界史作家・生命力を高める文章家の小園隆文です。
ブログを読んでいただき、ありがとうございます。
今日は【ドイツ・フランス・イタリアの神話・伝承】シリーズになります。
今回はまず【ローマ建国神話】、トロイア戦争とその後のアエネーアースの放浪の旅をご紹介していきます。
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物語は、オリンポスの最高神ユピテルが、プロメテウスを罰しているところから始まります。その理由は①プロメテウスがこっそり天の火を盗んで人間に与えた、②プロメテウスがある女神の名を明かさないこと、です。特に②の理由が重要でした。なぜならユピテルは、「ある女神が産むユピテルの子は、ユピテルよりも偉大になる」との予言を受けていたからです。ユピテルは自分も父を追放して最高神になっていますから、同じことを子にされることを秘かに恐れているからです。そしてその女神を突き止めて追い出してしまいたいと考えています。
プロメテウスはその女神の名を知っていますが、明かそうとしません。「知恵の神」としてユピテルの派手な女性関係ならぬ女神関係を戒めるためです。キリスト教の影響を受ける以前の神話では、たとえ神々といえども、良くも悪くも人間的です。
ユピテルはプロメテウスの肝臓を鷲に食いちぎらせるなど、最高神とも思えぬかなりむごい仕打ちをしますが、プロメテウスは耐え抜きます。それを見かけた英雄へルクレースがプロメテウスを助けます。その後色々と話し合ったのでしょう。ユピテルはプロメテウスを許し、プロメテウスはその女神の名をユピテルに教えます。その女神とは海の女神テティスのことでした。ユピテルはテティスをアイギナ島のペレウスと結婚させて、態よく追い出すことにします。
そしてペレウスとテティスの結婚式が盛大に催されますが、不和の神エリスは自分が招待されなかったことに不満です。そりゃそうでしょう、結婚式ですから(笑)。エリスはいたずらに、「最も美しい女神へ」と書かれた黄金のリンゴを広間に投げ入れます。そこに居合わせた女神たちは皆一様に「私のこと?」と色めき立ちます。
最後に残ったのが天上の神ユノ、知の神ミネルウァ、愛の神ウェヌスの三女神です。三女神は「誰が一番美しいか、ユピテルに決めてもらおう」となりますが、ユピテルは「トロイア・イダ山の羊飼いパリスに決めさせよう。純朴な若者なら素直に見ることが出来よう」と提案します。さすがユピテルは女性ならぬ女神経験豊富なだけであって、その嫉妬心が身に染みているのでしょう。巧みに責任を逃れました。
「誰が一番美しいか」審判することになったパリスを、ユノは「地上の権力」を、ミネルウァは「武勇と叡智」を、ウェヌスは「絶世の美女」を、それぞれ「私を選べば其方に与えよう」とパリスを誘惑します。そしてパリスが選んだのは、愛の神ウェヌスでした。黄金のリンゴはウェヌスのものとなり、ウェヌスはその約束通りパリスに絶世の美女を与えます。
その美女とはスパルタ王の妃ヘレナでした。パリスはヘレナをさらって妻にします。しかし怒りが収まらないのが、妻を奪われたスパルタ王メネライスです。「絶対に妻を取り返す!」と大軍をトロイアに派遣。こうして約10年に及ぶトロイア戦争が始まりました。もとはといえば、女神たちの見栄の張り合い、そして妻を取った取られたから始まった戦争。考えてみれば気まぐれというか、呑気というか…。
パリスは実はトロイアの王子の生まれです。母ヘクバがパリスを身ごもった時に悪夢を見てうなされ、それが原因で生まれてすぐに捨てられ、牧童の子として育ちました。ヘクバが見た悪夢とは、「自分が燃え盛る松明を生み、その火によってトロイアが焼き尽くされる」というものでした。ひょっとしたら、その松明とはパリスのことだったのか…?
戦争はなかなか決着がつかず、いつしか10年の月日が過ぎました。そんなある日、ギリシア軍が巨大な木馬を平原に残して、そのまま忽然と姿を消します。取り残されたという兵士が、「この木馬をトロイアの城内に運べば神の御加護がある」と告げます。それを信じたトロイア軍は総出で木馬を城内に運びます。ギリシア軍も姿を消し、「これで勝った!」と、突然降って湧いたような勝利にトロイアの城は大喜び。飲めや歌えやの大騒ぎが始まります。
その中でアエネーアースはある夢を見ます。その夢の中でトロイアの将軍ヘクトルが、「ウェヌス神を持つ子よ、トロイアはギリシアの手に落ちた。外はすでに火の海だ。祖国の守護神べナテスとウェスタ女神の聖火を護って逃げ延びろ。それらを祀るにふさわしい地を見つけ、新しい都を興せ」と告げます。アエネーアースが慌てて跳び起きて外を見ると、町中全体がもうすでに火の海でした。
木馬の中に潜んでいたギリシア兵が飛び出して、街を荒らし回っています。木馬はギリシアの将軍オデュッセウスの罠でした。トロイアはまんまとはめられて、自ら敵を城内に引き入れてしまいました。これが【トロイの木馬】、内部にいる敵のスパイ・内通者を指す言葉の語源となった故事です。この名前のコンピュータウイルスもあるようですが。
アエネーアースは城に駆け付けますが、すでにそこは阿鼻叫喚の修羅場。王も王子もすでに死去してしまいました。呆然と立ち尽くすアエネーアースにウェネス女神の声が聞こえます。「トロイアの滅亡は神の御意志です。其方は逃げなさい。父アンキセスと妻子を連れて逃げるのです」。
アエネーアースは家に戻り、一緒に逃げるよう父を説得。しかし80歳になる父アンキセスは、「私はもう十分に生きた」と動こうとせず、祖国と一緒に運命を共にする覚悟でした。それでもアエネーアースがアンキセスの説得を続けていると、突然ユピテルの雷鳴が轟き、館の上に輝く星がイダ山の森に通ずる道を照らします。「これは輝かしい未来の予兆。神々の御加護だ」。アンキセスはアエネーアースらと共に逃げ延びることを決めます。
アエネーアースが父を背負い、我が子アスカニサスの手を引いてイダ山の森を目指します。しかし途中で妻クレウサを離れてしまいます。必死に妻を探すアエネーアースに、霊となったクレウサの声が聞こえます。「最愛のあなた。これも神々の御意志です。あなたはへスペリアの地に王国と王妃を得られる。さあ、行ってください!」自らの運命を悟ったアエネーアースは、妻との別れの悲しみを堪えながら、父・子とイダ山の森を目指します。
小高い丘の暗い森では、すでに同志たちが森の木を伐って船を造っていました。その船をギリシア兵の目を盗んで港に運びます。トロイアの町はすでに無残な廃墟と化していました。アエネーアースたち一行は、祖国滅亡の悲しみを目と胸に焼き付けながら、トロイアを脱出。新しい地を目指しての旅に出ました。
【学べる点】
①最高神ユピテルの父親追放 武田信玄と同じようなことをしていますが、やはり何はあろうとも親は大事にしましょう。信玄が天下取りを前に病死したのは、「父親を追放したのがどこかで罰となって災いしたのでは?」と知り合いの日本史研究者が言っていました。妙に納得したのを覚えています。
②ヘクバが我が子パリスを捨てたこと これもやはりいただけない。悪夢で何を言われようと、やはり我が子は愛おしく育てた方がよかった。結果としてパリスのやったことがトロイア戦争を引き起こしましたが、もしヘクバが愛情を持って育てていれば、違った結果になったかも…?
③トロイの木馬 戦場において敵を迂闊にもに信用してしまったトロイア軍。戦場での戦いは、敵との騙し合い。まず巨大な馬が置き去りにされている時点で「怪しい!」と思わなければ。厳しいようですが、安易に敵を信じてしまったトロイアの自業自得ともいえます。ヘクバがパリスを捨てたことといい、この件といい、これでは「トロイア滅亡は神々の御意志」といわれても仕方ない。
今回はここまでといたします。妻を取った取られたから始まったトロイア戦争ですが、気まぐれな神々、好き勝手な王、学ぶべきことや反面教師にすべきことがたくさんあります。
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今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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